研 究 計 画 書

 

ふりがな                 やまだ こうじ

氏 名:  山田 浩司               

             

研究テーマ

 

中小先進国による国際社会開発支援

 

 


 私は現在、世界銀行に在籍して日本を客観的に見られる立場にあるが、世界銀行にいると、日本よりもむしろ欧州の世界銀行加盟国のプレゼンスの高さを痛感させられることが多い。特に、1996年のウォルフェンソン総裁就任以降、世界銀行は貧困削減をオペレーションの上位目標に掲げ、インフラ整備支援から社会セクター支援へのシフトを鮮明にするにつれ、欧州諸国の存在感がより大きくなっているように感じる。

 

 欧州加盟国の政府開発援助(ODA)への支出額は、絶対額としては日本に比べて圧倒的に少ない。特に北欧諸国の絶対額は非常に小額であるが、一方でODAの対GNP比が国連が定めた先進国の努力目標とされる0.7%を大きく上回っている国は北欧に見られ、独特の存在感を示している。世界銀行でIDA増資交渉や信託基金の受託手続を間近に見てきて、欧州の中小加盟国は、その拠出額に比べて発言力が強いと常に感じられる。

 

 このような存在感はどこから生まれてくるのか。欧州の中小先進国は、絶対額としては小規模であるそのODA予算を、いかなるレバレッジ手法を用いて効果的に活用しているのか。本研究では、欧州の中小先進国がODA実施に当たって用いる手法を、先ず国際機関、特に世界銀行との関係を中心に分析する。そして、二国間援助で用いられる手法を調査・分析するため、欧州から数カ国を選んで具体的に検討してみたい。そして、最後に、これら欧州中小国との比較から、日本のODAの効果改善に向けた具体的提言を挙げてみたい。

 

 本研究では、先ず、OECDのDAC加盟国の比較を行なうことで、欧州の中小先進国の全体的傾向を把握する。現在私が立てている仮説は次の3つである。

 

1.中小国は、二国間援助よりも多国間援助を多用する傾向が強いのではないか。

2.中小国は、国際機関への拠出金の規模以上に国際機関との関係を強める方策を講じているのではないか。

3.中小国は、同様の問題意識を持つ他の国と連携を模索し、グループでの発言権強化に努めているのではないか。

 

これらの仮説を検証するため、先ず1.についてはDAC加盟国の二国間援助と多国間援助の配分比率を比較する。2.については、具体的に世界銀行との関係を例にとり、「信託基金の多用」と「自国コンサルタントの配属部署」という2つの指標から比較を試みる。ODA統計上は二国間援助にカウントされていても、実際はコモンバスケットファンドへの拠出であったり、信託基金拠出を通じた世銀との協調融資であったりするケースもあるので、上記1.で特に有意な傾向が見られなかった場合、2.の比較によって確認できるものと考えられる。3.についても、具体的に世界銀行の複数ドナー参加による信託基金プログラムを例に取り、各プログラムへの資金拠出国の参加構成を調査することで検証を試みたい。

 

 次に、具体的に数カ国を例にとり、予め幾つかの調査項目を定め、援助哲学とモダリティ、その背景について比較を行ないたい。とり上げるのは、アイルランド、デンマーク、フィンランド、ドイツを考えている。

 

 アイルランドは、2005年までにODAの対GNP比0.7%達成を国際公約として掲げ、近年急激にODA予算を拡大している。急速な予算拡大は90年代の日本でも見られた現象であるが、アイルランドが予算拡大に対応していかに実施体制を整備しつつあるか興味深い。

 

 デンマークは、2001年度のODAの対GNP比が1%を超えていた唯一の国である。2001年11月に右派政権が誕生したことにより、2002年度のODA予算は削減され、以前にも増してODAの効果が強調されるとともに、対象国の絞り込みが進んでいる。また、ODAのアンタイド化の議論が進む中、デンマークはフランスとともに欧州で数少ないアンタイド化反対国である。

 

 フィンランドは、近年各機関が実施する国際競争力ランキングで常に上位を争い、特に情報通信技術分野で高い技術力を持つ。このような国内企業の競争力、発達した情報社会に裏打ちされ、ODAの分野でも新たなニーズに対応する高い潜在能力を持つ。

 

 ドイツは、中小国と呼ぶことはできない。しかし、ドイツのODA実施体制は、技術協力、有償資金協力、多国間協力などの各実施機関の分担形態が日本に比較的似ており、しかも国内経済の低迷により現在のODAの規模を維持することが困難になりつつあり、援助対象国と対象分野の絞り込みや、実施機関の統廃合が進んでいる。

 

 以上の4カ国について、横断的に次の項目により調査、比較検討を行なう。

 

 第一に、各国の援助実施体制である。省庁と実施機関、途上国における各国の窓口機関、人員規模、人員の動き方、ODA関連法規の有無、自国の人的リソース(コンサルタント、大学等研究機関、NGO)の活用状況、援助のアンタイド化への姿勢等を調査する。

 

 第二に、各国の援助優先対象地域と対象セクターである。各国が援助対象国やセクターを絞り込んでいるとすれば、その背景は何か。内政上の必要性、自国の産業競争力、援助関係人材成長の土壌等が考えられるが、政策形成の要因を探りたい。そして、対象絞り込みに用いられる指標として何を挙げているか、二国間援助と多国間援助のチャンネルをいかに組み合わせているかを具体的に検討する。

 

 第三に、二国間ODAの実施モダリティである。二国間援助における援助のプロジェクトサイクル、用いられる援助ツール(有償と無償の比率、一般財政支援と個別プロジェクト支援の比率、技術援助の実施形態、国際機関や他国との協調融資)、現地リソースの活用状況等を調査したい。

 

 調査方法としては、先ず文献を通じた情報整理を試みる。基礎文献としては、DACのDevelopment Cooperation Report、DAC加盟国のODA実施体制のPeer Review、各国ODA政策担当官庁と実施機関が開設したウェブサイト、及び過去に国内外で行なわれた当該国のODAに関する調査研究が挙げられる。各地域での各援助国の活動状況については、Carol Lancaster “Aid to Africa”といった書籍でも確認を行ないたい。また、二国間ODAの実施体制に関しては、主に各援助機関へのメール照会を用いるが、必要あれば実際の途上国での活動内容ヒアリングを行ないたいと考えている。アイルランドを除く他の3カ国は、ネパールで実際に二国間協力を実施しているので、ネパールでの調査を考えたい。(但し、アイルランドの二国間協力について詳細に調べる過程で、他の3カ国も合わせて全ての対象国が二国間協力を実施中の国があれば、そちらでの現地調査に切り替える可能性はある。)

 

 最後に日本のODA実施への示唆を述べたい。日本では、鷲見一夫や古森義久といった論客が、日本のODAへの疑問を提示し、ODA撤廃すら主張している。確かに傾聴に値する論点もあるが、今日日本で行なわれているODA見直し論、廃止論の殆どが、他国のODAとの比較検討を経ずに短絡的な結論に結びついているように思う。本調査の締めくくりとして、欧州中小先進国のODAへの取組のうち、予算逼迫下における日本のODAの効果的な実施体制の構築に応用すべき点がないか検討してみたい。

 

以上